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                     行政書士田中 明事務所
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  消費者金融を系列化した銀行

  銀行が低金利で利ザヤが稼げない中にあって、無担保の銀行カードローンは拡大の一途を辿って
おり、銀行
全体の融資残高(平成29年3月)が5兆4千億円となり、一方、消費者金融(ノンバンクの小口
無担保融資)の方は10年前には融資残が20.9兆円あったのが今や約4兆円と四分の一以
下に減り、
いつの間にか銀行カードローンに逆転されています。


  消費者金融が残高を減らして行った理由は簡単です。
平成18年(2006年)12月に改正貸金業法が成立して上限金利が利息制限法の上限金利(10万円以上
~100万円未満は年18%)まで下げら
れたこと、次に平成22年(2010年)6月から総量規制(貸付残高を
年収の三分の一までとする)が完全実施さ
れたことです。  
 これにより、貸金業者による過剰融資が抑制されて年々残高を減らして行くことになったのです。

儲け過ぎとか督促が酷いなどの社会的批判をよそに鰻上りに融資残高が拡大していた消費者金融
の最盛期、そして平成18年の最高裁判決を契機に起こった凋落
、この劇的変化を知ることなしには
銀行カードローンの拡大
を正しく理解出来ません。

  最高裁判決が出るまでは、金利が27%台という高利にも拘らず消費者金融のニーズは鰻上りにあ
り、東証1部上場の消費者金融会社になると融
資残高が1兆円を少し超える程度でも経常利益が1千
億円も出ていました。
   これは単純に計算しても出で来る数字で不思議なことでも何でもありませ
ん。
  年27%で貸せば1兆円の売上に対し年2700億円の利益が出て、経費が1700億円掛ったとすれ
ば経
常利益は1千億円になります。

  その頃、銀行が個人向小口無担保融資(リテール)に全く力を入れていなかったのに対して、消費
者金融は
サラリーマンであれば健康保険証を提示するだけでカードが発行され50万円をその日に受
取れ
るという商売をやっており、優良顧客には貸付枠を100万円~200万円以上に増枠して行ったの
です。
   その金融スタイルと云えば、カード1枚でATMで借りたり返したりが出来、顔を見られる
こともなく、質屋とか他の金融と比
べても格段に利便性の高いものだったのです。

  我が世の春を謳歌していた消費者金融に激震が走ったのが、平成18年1月13日の最高裁判決で
た。
   この判決により利息制限法の上限を超えて支払った金利は無効、つまり過払いとなり、
高金利27%の
拠り所であった貸金業法第43条の「みなし弁済規定」は空文化されたのです。
  それ以後、過払金返還請求の嵐が全国で巻き起こり、今日まで業界全体で返還した過払金の累計
は6兆円になると云います。

  消費者金融会社の内部では凄まじいリストラがなされ、大手のT社は会社更生法を申請しましたし、
遣っていけなくなった中小業者はどんどん潰れて行き、業者の数は往時の六分の一にまで減少して

います。

  大手消費者金融会社の生き残り策は、銀行の傘下に入ることでした。   大手のA社などは平成
16年(2004年)に社員を6500人から1500人に減らして三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)の持分
法適用関連会社になり、P社も三井住友フィナンシャルグループの持分法適用関連会社になりました。


  その後、A社は平成20年(2008年)12月にMUFGの連結子会社(MUFGがアコム株の40.4%を保有)
となっています。
 


  改正貸金業法の狙いは、消費者金融を潰して銀行の下に再編することにあったと云う人がいます
が、本当にそうだと思います。
  消費者金融は利息制限法の上限を超えた金利(27%と18%の差額9%、グレーゾーン金利という)が入
らなくなったら利益が殆ど残らない経営体質だったのであり、過剰融資の拡大が利益拡大の唯一の
方法だったのです。
  その一方で多重債務者を生み、過酷な催促が社会問題になっていましたし、消費者金融が最高
益を出していた時、裏では自己破産や多重債務者がピークに達していたのです。


 しかし、そんな時代の徒花のような消費者金融でも残したものが2つあります。
一つはサラリーマン層における高金利無担保小口融資の膨大な潜在的需要を発掘したことであり、
もう一つは質屋などとは比較にならない利便性とスピード感のある消費者金融スタイル(30日間無利息
資、簡易審査によるカード発行、保証人不要、ATMを利用した即日融資とリボ払い返済など)を確
立したことです。


  銀行カードローンにもこのような消費者金融のビジネススタイルはそっくり取り込まれています。
尤も、銀行はカード発行の審査と融資をするだけで、督促・回収業務は大手消費者金融会社や大手
信販会社に委託しています。

  督促・回収業務のような泥臭くて地味な業務を、銀行は行員に一切やらせず、傘下の金融関連会
社に丸投げしているのです。

  銀行カードローンの金利は平均15%程度です。  5兆4千億円を年15%で貸すと8100億円の利益を
生みます。  もしこの額を年2%の住宅ローンに使ったとしても利益は1080億円ですから、約7倍の
利益率です。


  今では三菱UFJ銀行はクレジットカードの発行まで行っています。  自身でするのはカードの審査
と発行までで、加盟店管理業務や督促・回収業務は三菱UFJ銀行の連結子会社(信販トップのJ社な
ど)に丸投げしているようです


  最近、銀行でも貸付を収入の三分の一以下にするなどの自主規制に乗り出していますが、これは
当たり前のことです。
  銀行には貸金業法が適用されない為、消費者金融に適用されている総量規制(貸付総額は収入
の三分の一以下とする)の対象外だったのです。
  しかし、銀行カードローンはそもそも消費者金融からビジネススタイルとノウハウを学んだもので、
業界再編後は子会社化した消費者金融会社に督促・回収業務を委託しているという構造を眺めれば、
銀行カードローンというのは消費者金融が銀行の名の下で行われているだけのことです。

  かって、消費者金融会社の督促行為は特異で悪名高いものでした。 貸す時はあんなに紳士的で
あったのに一度延滞すると金貸しの顔に豹変して電話でしつこくいやらしく督促して来て、脅迫まがい
のことも吐いて強引に支払わせるというのがそのやり方でした。
  この督促スタイルは利便性の高い金融スタイルの裏側にあったもう一つの顔なのですが、さすがに
銀行は傘下の消費者金融会社やクレジット会社に顧客と保証委託契約を締結させることで、裏のもう
一つの顔の方は取り込まずに済んでいるのです。

 もともと、銀行には殆どの融資で保証会社や信用保証協会と保証委託契約を顧客に締結させると
いう銀行独自の金融フレームが伝統としてあり、延滞債権についてはこれらの会社や協会に代位弁
済を請求して全額回収していたのです。
 その意味では、銀行は消費者金融の取り込みにこの金融フレームを利用すれば、消費者金融の裏
の顔を心配する必要もなかったのです。
 つまり、銀行内部には銀行の下で消費者金融を再編する為の基盤が最初から整備されていたのです。

 金融庁が改正貸金業法を作った際、そこまで見通していなかった筈はなく、結果として同法施行後か
らは銀行の下で再編が起こり、消費者金融会社は督促・回収業務に専念することが唯一の生き延びる
道となったのです。

 
                                      2017.10.27  
                                      2022.11,17 一部訂正

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