職人型内容証明仕掛人の方法論 ! 第108号
平成25年7月26日発行
職人型内容証明仕掛人が一発解決目差す合法的仕掛け作りのノウハウ。
今回の目次
□ 内容証明郵便業務が非弁になることがあるのか?
離婚や不倫が専門の行政書士S氏が、大阪弁護士会から非弁で告発されるという
(起訴猶予処分に留まりましたが)事件が、平成22年頃ありました。
一方、S氏は相手方弁護士を告訴し、大阪弁護士会に対し損害賠償請求訴訟を起こ
していましたが、告訴は受理されず、民事訴訟は1審、2審(平成25年5月29日判決)
とも非弁が認定され請求棄却となりました。
私は2審判決文を見ていませんが、判決理由には「女性から依頼された業務は弁護
士法に定められた「『法律事件』に関するもので、行政書士もそれを認識していた。
内容証明の作成にあたって法律的知見などに基づいて主体的に女性を指導して
おり、行政書士に許される書類作成のための相談業務の範囲を大きく逸脱し
弁護士法72条に違反している。 内容証明それ自体が新たな事件性を帯びた
権利義務関係を生じさせるものである」ということが書かれているそうです。
さて、S氏は行った業務及び経緯を次のように述べています。
イ 内縁の夫の不倫相手(以下相手方という)に慰謝料を請求したい旨の相談を女性
(以下依頼者という)から受ける。
ロ 内容証明郵便を作成して160万円の慰謝料を相手方に請求し和解を勧めた。
(しかし、S氏に拠れば慰謝料の算定業務は行なっていないという)
ハ 相手方から慰謝料を分割して支払いたい旨及び公証証書作成に同意する旨の
回答が依頼者宛に届いた。
ニ 当事者間で合意があったと考え、公証証書作成の委任状を双方に送付した。
この際、公証証書原案に記載した慰謝料160万円の5%である8万円を報酬として
依頼者から受領した。
ホ 相手方から委任状の返送がないので、公証証書の作成を進めるか否かを質問する
書面を相手方に送付した。
ヘ 相手方の弁護士からS氏の一連の行為が示談交渉にあたり弁護士法違反だとする
警告文書が届いた。
上記のS氏が述べた経緯でよく分からないのは、公証証書原案の慰謝料額160万円は
当事者が交渉して合意した金額なのか、相手方は本当に160万円の支払いに同意して
いるのかということです。
何れにしても、S氏が示談交渉を行った形跡は感じられません。
尤も、裁判所は「S氏が主体的に女性を指導しており」とI云っているだけで、S氏が相手
方と示談交渉したとは云っていないのです。
実は7年前になりますが、「相談に来た多重債務者に報酬を得る目的で自己破産
の効果を説明し手続きを指導し申立てをさせた」として非弁とされ、執行猶予付有罪
となった行政書士がいました。
S氏は示談交渉をしていないとしても、慰謝料160万円の5%を報酬として請求したことが、
文書作成に関する相談料と異なる成功報酬又はコンサル料と見れなくもありません。
では、これは何に対する成功報酬なのか。
裁判所は、S氏が「内容証明の作成にあたって法律的知見などに基づいて主体的に
女性を指導しており」と述べている通り、慰謝料の算定に関し依頼者を指導した(つまりS氏
が主体となって慰謝料を160万円と算定しその額での和解を主導した)と見ているのです。
どういうことかと云うと、その指導は単なる文書作成に関する相談業務ではなくて、法律
事件について法律的見解を述べる「鑑定」業務に関わる相談業務に他ならず、8万円はその
報酬だと裁判所が判断したということです。
行政書士は当事者で合意した内容に基づき示談書を代理作成出来ます。
しかし、示談が合意に達していない段階では法的紛議の生じる可能性が払拭されていない
ことから関与を避けるべきであると前々から云われていたことです。
この判決は、金額の合意前に行政書士が依頼者を指導し主体的に慰謝料を算定して内
容証明郵便で請求することに関する相談業務が非弁になる、と云っているのです。
S氏の相談業務が非弁である為に、内容証明郵便が事件性を帯びた権利義務を生じさせ
たものになっているのです。
行政書士が内容証明郵便で慰謝料を請求するのは、当事者で金額の合意が纏まって
からだと云っているのです。
しかし、判決は相談業務が非弁であればその内容で作成した内容証明郵便も非弁になる
と云っているだけで、それは限定的なものです。
そもそも内容証明郵便業務は、弁護士法72条の「ただし、この法律又は他の法律に別段
の定めがある場合は、この限りでない」の規定により本条の適用から外れること、
及び、行政書士法第1条の2で行政書士業務として法定する権利義務又は事実証明に関する
文書に内容証明郵便が該当することから、
上記のような非弁の相談に付随して作成されるものでない限り、行政書士が何ら臆すること
なく内容証明郵便を作成出来ことに些かの変化もないと私は考えています。
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(最高裁昭和54年12月14日判決)。