職人型内容証明仕掛人の方法論 !  第174号
          令和4年6月27日発行
  職人型内容証明仕掛人が一発解決を目差す合法的仕掛け作りのノウハウ。

                  今回の目次
      □
使い勝手なら法定後見より「委任契約及び任意後見契約」


  私は平成26年に委任者(以下本人という)を同伴して公証役場に行き、「委任契
約及び任意後見契約公正証書」(以下同公正証書という)の作成に立会いました。

  以後、本人は平成27年から介護付有料老人ホームに入居し、「任意後見監督
人選任」の申立をしないまま7年が経過しました。

  任意後見契約は任意後見監督人が選任された時から発効する契約なので、
発効までの公式名称は任意後見人ではなく任意後見受任者と呼びます。

  その利点は委任者が判断力の低下しない内に意中の人(親族や知人)を任意
後見人に指定して置けることです。   法定後見では裁判所が決めるので誰が
なるか分かりません。

  
  さて、委任者の中にはまだ判断力の低下はないものの、加齢、病気、怪我
により体が不自由になっているが近くに援助する親族がいない1人暮らしの高
齢者もいます。

  そういう高齢者に最適な契約が委任契約(財産管理契約)で、公証役場で任
意後見契約と同時に公正証書にするのが通常です。

  この委任事務は「自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務と見
守り」を内容とし、任意後見人の委任事務の内容と何ら変わりなく、代理権の
範囲も任意後見人の代理権の範囲と全く同じです。

 つまり、委任者は委任後見契約の発効前から、任意後見人の委任事務と全
く同じ内容の事務を直ちに受けられることになります。


  現在の本人は、同公正証書の作成時に全く見られなかった認知症が少しず
つ進行しており、2年前からはペンを持つ右手が震えて非常に読み難いカタ
カナの署名しか書けなくなりました。  勿論、文書など書けません。

  今年の1月になって、アパレル業の会社を経営していた弟が2,000万円もの
借金を残して亡くなったことを、サービサーからの通知書で知らされました。

  相続人は本人と妻と妹2人の計4人ですが、本人以外の3人は既に同一の
日に示し合わせたように相続放棄をして受理されておりました。

  債務超過がその理由であることは明らかで、このままでは本人が全債務を
被ることになるので、本人も相続放棄の意思であることに変わりありません。


  そこで、右手が不自由な場合、本人の署名をどうするかが問題になりました。

  当初、私は任意後見受任者の代理権目録に「相続の承認・限定承認・放棄」
「以上の各事項に関連する一切の事項」と記載されていることから、任意後見
受任者が本人に代理して記名・押印が出来るものと考えていました。

  しかし、家裁は、任意後見受任者はもとより任意後見人の代理署名もダメ
で、法定代理人の代理申請でないと受理しないと云います。

  つまり、代理申請出来るのは、成年後見制度により選任された法定後見人
(後見、保佐、補助の3タイプがある)だけだと云うのです。

  裁判所は本人が認知症により相続放棄の意味を理解し得ない程に判断力
が低下しているなら、未成年の親が法定代理人になって代理申請するのと同
じように、法定後見人を選んで代理申述せよと云っているのです。


  しかし、何でこんな迂遠な手続きが要るのかと思いましたし、右手が震えて
カタカナしか書けない状態と判断力の低下した状態とは同じではないのでは
ないかと思いました。
 
  本人はもともと不器用だった右手の指先が加齢の進行に伴いカタカナしか
書けなくなったのであり、相続放棄の意味を理解する事理弁識能力はまだ
あると思われました。

  書記官に聞いて見ると、自署は読み難いカタカナでも構わないと云います。
そこで、再度、本人に自署を試みることにしました。

  ホーム長の立会いの下、看護師の添え手で震えを抑えながら6カ所に自署
をして貰いました。  カタカナの一筆書きの崩れた筆記体でした。

  照会書に文章は書けませんから、私が代筆して代筆者名と代筆の理由を
付記して提出しました。


  頑張った甲斐がありました。 
家裁から追って申述受理証明書が届いたからです。
申立てから3ヶ月経っていました。

 裁判所はカタカナの崩れた自署でも自署と証明されれば本人の意思に基づ
くものとして受理し、自署の読み難さだけでは事理弁識能力の低下した状態
とは判断しないという態度を取っていることがこれで分かりました。


  今回、成年後見制度を勉強する機会を持ちました。 この制度は介護保険
法(2000年4月1日施行)と共に成立して22年が経ちます。
  成年後見制度の評判が今一の為、改正の議論が国会で活発になっている
という情報も得ました。

  逆に、まだ任意後見監督人選任の申立件数が成年後見全体の2%程度に
過ぎない任意後見契約の方が、断然評判がいいことも分かりました。

  改めて、締結から8年目に入った「任意契約及び任意後見契約」の利便性
を考えて見ました。

  判断力がまだ低下していない段階での契約ですから、遺言書の作成も
死後事務委任契約の締結も当然可能ですし、体の不自由な1人暮らしの
高齢者にとって見守りや生活支援を直ぐに受けられる点でこれほど助け
になる契約もないのではと思っています。
 

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