職人型内容証明仕掛人の方法論 ! 第180号
令和5年2月7日
職人型内容証明仕掛人が一発解決を目差す合法的仕掛け作りのノウハウ。
今回の目次
□ 認知症の人の意思能力の判断基準について
認知症の人がした法律行為(贈与契約、公正証書遺言、養子縁組など)の効力に
関する判例が増える中、意思能力が欠けるとして無効にされたケース、保佐人弁護
士に訴訟能力がないとして却下されたケースが見られます。
以下では、意思能力や訴訟能力が欠けると判断される基準、関係条文について
整理しました。
1 公正証書遺言が無効とされたケース (東京地裁平成29年6月6日判決)
遺言者の遺言当時の認知症の程度が初期から中程度であったとして
認定した上で、遺言の内容が複雑であったこと等も考慮し、
遺言者の意思能力が欠けていたとして公正証書遺言を無効としています。
判決では、医師の診断書、要介護認定調査票から認知症の程度を以下の
ように細かく認定しています。
・ 記銘力(新しく体験したことを覚える能力)障害がある
・ 認知症の中核症状として、短期記憶障害が相当程度進んでいる
( 一日の予定を理解して記憶出来ない、一日に何度も確認する電話をかけ
る、電話の内容を記憶出来ない、食事をしたことも忘れる、外出して帰宅
出来ない)
・ 日常の意思決定を行うための認知能力はいくらか困難
・ 自分の意思の伝達能力はいくらか困難
・ 季節の理解やこれに応じた適切な服装の選択をすることが出来ず、徘徊
行動及び感情の混乱等も見られる
これらから、認知症の程度は少なくとも初期から中程度まで進行しており、
自己の遺言内容自体も理解及び記憶できる状態でなかった蓋然性が
高いと判断し、
かつ、遺言が複雑な内容であることも併せて認定し、遺言者は遺言作成
当時遺言能力を欠いていたとして公正証書遺言を無効としたのです。
「中程度まで進行した認知症」の場合、「意思能力を欠くもの」とし
た裁判例が多く見られることから、法律行為は無効と判断される可能性が
高いと云えます。
2 保佐人の弁護士が提起した訴えが訴訟能力がないとして却下されたケース
保佐人の弁護士は、訴訟を受任する際に脳梗塞で長期入院の高齢者と
面談して意思確認をすることをせず、
共同原告の娘を通じて訴訟委任状を受取っていました。
なお、条文では、未成年者と成年被後見人に訴訟能力がないとされています。
(民事訴訟法第31条)
また、判断力がない人、未成年者、成年被後見人が訴訟を提起する場合は、
成年後見人を付ける必要があり、成年後見人が法定代理人となって訴訟行
為を行うことが出来ます。
成年後見人は本人の為の法定代理人であり、本人が植物人間であって
も、少なくとも財産上のことに関しては単独で本人の為に単独で示談交渉
や訴訟行為が出来ます。
次に、被保佐人は訴訟能力がありますから単独で訴訟行為が可能ですが、
訴訟行為をするには保佐人の同意が要ります(民法第13条1項4号)。
保佐人である弁護士に訴訟を委任する際、被保佐人が自署も出来ない程
病状が悪化している場合は成年後見人を付けることになります。
なお、特別代理人の規定(民訴法35条)は、判断能力のない被告に対して訴訟
提起する場合の規定です。
例えば、被告が心神喪失の状況にあるが被後見人の審判を得ていない場合、
特別代理人の選任を求めることが出来ます(東京高裁昭和62年12月8日判決)。
3 成年後見人が付いていない父が子に対し提起した土地に関する訴訟が、
父に訴訟能力がなかったとして訴えが却下されたケース
被告が父が認知症で裁判をやるだけの判断力がないと反論したので、裁判所
が父を尋問したところ、父はまともな会話が出来ず、弁護士に依頼したことも
忘れており、長谷川式簡易知能評価スケールも5点だったので、訴訟を依頼し
た時点で訴訟能力がなかったと判断したのです。
訴えが却下された場合は、弁護士が印紙代その他訴訟費用を負担する
必要があります (民事訴訟法第69条、70条)。
ですから、受任弁護士は委任者が認知症に掛かっている場合、訴訟能力
がある程度かを確認して置かないと後で不利益を受けることになります。
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