職人型内容証明仕掛人の方法論 !  第87号
               平成23年4月4日発行
    職人型内容証明仕掛人が一発解決を目差す合法的仕掛け作りのノウハウ。

               今回の目次
        □ 通常損耗補修特約に関する最高裁の判断



     □ 通常損耗補修特約に関する最高裁の判断

  通常損耗とは自然損耗のことです。    原状回復義務にはこの自然損耗分の
修繕義務が含まれないというのが一貫した裁判所の態度です。  
そもそも家賃の中に自然損耗分の補修費用が含まれているのだから、賃貸人の負
担になるのが当然だという訳です。  

  このように裁判所は原状回復義務を故意・過失による破損・損耗、善管注意義務
違反その他通常の使用を超えるような使用による破損・損耗等を復旧する義務だと
限定的に考えるのです。

  その一方で契約自由の原則から自然損耗分を借主負担とする特約も有効とされ
ていいのではないかという議論がありました。    
 他方、貸主と借主の間には情報格差があり、借主に一方的に不利益な契約条項
は無効にすべしという消費者契約法第10条の要請もありました。

 本最高裁判決は、どういう場合に通常損耗補修特約が認められるのかを明らかに
したものです。

「賃借人は賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して
賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は賃借人による賃借物
件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借
物件の損耗の発生は賃貸借という契約の本質上当然に予定されているも
のである。   それゆえ、建物の賃貸借においては賃借人が社会通念
上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味
する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕
費等の必
要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行
われている。 
 
 そうすると、建物の賃借人はその賃貸借において生ずる通常損耗につ
いての原状回復義務を負わせることは予期しない特別の負担を課すこと
になるから、賃借人に同義務が認められるためには少なくとも賃借人
が修繕費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の
条項自体に具体的
に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明ら
かでない場合には賃貸人
が口頭により説明し、賃借人がその旨を明
確に認識しそれを合意の内容と
したものと認められるなど、その旨
の特約が明確に合意されていることが
必要である
と解するのが相当
である」
(最高裁平成17年12月15日判決)   →判決全文

  要するに、通常損耗補修特約の成立が認められる為には、その内容を具体的に
明記した条項が賃貸借契約書にあり、条項の文言自体から通常損耗を含む趣旨で
あることが一義的に明白でなければならないというのです。

  これまでハウスクリーニング代を無条件で借主負担とする契約書が多く見られま
した。  
  しかし、ハウスクリーニングというのは大部分が自然損耗の原状回復ですから、
もし契約書の条項で自然損耗を貸主負担としておきながら、特約条項でハウスクリ
ーニング代を借主負担とする旨記載されていたとしたら、借主から矛盾を指摘されて
特約の成立を否認されるかもしれません。

  ですから、特約条項と契約書本文の条項が整合した契約書を作ることがまず貸主
に求められているのです。

  次に、自然損耗分を借主に負担させる特約を締結する場合には、具体的な自然
損耗の範囲や実際に掛かる修繕費の金額などを借主によく説明して納得を得ておく
ことが必要になります。
  また、礼金を取っている場合には礼金の法的性質が自然損耗分の原状回復費用
と解されていることから、借主の負担が大きくなり過ぎないよう考慮した特約内容に
する必要があります。

  そうしておけば、明渡し時に原状回復費用が借主の予想もしない金額になって
借主とトラブルになることが回避出来る筈です。
  

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