情報のコーディネーター  第59号
         
 
       平成21年11月10日発行
          窮すれば通ず。 情報こそ反転の力なり。 コトバで心の壁を破れ。

               今回の目次
        □ 空と輪廻について
           ☆ 「袖振り合うも多生の縁」
           ☆ 輪廻と縁起



   □  空と輪廻について

      ☆ 袖振り合うも多生の縁
 NHK朝ドラのテーマ曲を何気なく聞いていたら、「袖振り合うも多生の縁」という歌詞
が耳に残りました。   聞いていても何となくいい感じなのです。
当初、「多生の縁」とは「多少の縁」と書くのだろうと、つまり多少は縁があって袖が触れ
合ったのだろうとロマンチックに想像していましたら、最近間違いに気付かされました。  

 多生とは輪廻転生(この世に何度でも生まれ変わること)のことを差していて、
多生の縁とは袖振り合うようなことでもただの偶然ではなく、過去の世の縁によるという
意味なのだそうです。  

 仏教にある輪廻・因果応報の思想を朝ドラの歌詞の中にこっそり忍ばせているとは、
作詞家も中々やるものです。
                        
 仏教に由来する言葉は沢山ありますが、仏教そのものが難しいこともあって、
庶民に分りやすい別な漢字が当てられて広まってしまったということがあるようです。

 実は、「多生の縁」ではなく「他生の縁」として使う人の方がずっと多いのです。
「他生」とは「前世」「来世」という意味です。 
尤も「前世」という意味で使っているのなら、極端な間違いではありませんが・・・・。


      ☆ 輪廻と縁起
 「多生の縁」が輪廻思想から来ているとしても、だからどうせよというのでしょうか。
茶道に「一期一会(いちごいちえ)」という言葉がありますが、これはもう二度と会えない
かもしれないという覚悟で人に接しなさいという心得を述べたものです。

 では、「袖振り合うも多生の縁」はそんな些細な縁でも大事にしなさいという意味
なのでしょうか。
 
 仏教についてよく知らない人でも、仏教と聞くとなんとなく輪廻が思い浮かぶようです。
輪廻というのは釈迦以前からインドにあったもので、不滅な霊魂があってそれが
動物にでも植物にでも何度も転生するという思想です。

 一方、釈迦は無我や空や縁起の思想を説いた人です。
紀元前2世紀のパーリ語の経典に「ミリンダ王の問い」がありますが、ここに登場する
仏教僧が「人は現世で善を行ってこそ、来世に生まることを免れ、解放される」と云って
います。

 ここで、輪廻が克服の対象とされていている、つまり否定的意味に使われているのです。
そうなのです。 無我の思想(霊魂の否定)と輪廻はそもそも全く矛盾しているのです。
和辻哲郎という哲学者は、「生命の流動的変化のみあっても輪廻はあり得ない。 輪廻
思想と無我思想の調和は不可能である」と言っています。  

 現代では釈迦は輪廻を方便として是認したに過ぎないという考えが有力になっています。
輪廻というのは釈迦が説いた思想でも何でもないというのです。
                       
 釈迦の思想を簡単に云えば、「自我は存在せず」、「一切皆空」、「空は縁起である」に
なります。 縁起とは実体的なものは何もなく、全てが刹那刹那の相互依存関係によって
あるに過ぎないという思想です。 縁起という関係性を空というのです。
 
 空が縁起だとすれば、そこには少しも輪廻的な残滓が感じられません。
人生や運命は過去世で決まるのではなく、縁起によって自ら切り拓いて行くものになります。
何が縁起になるかは、今現在の自分の行為(業)によって人それぞれで違って来るのです。
 
 ここが仏教のポストモダン性があります。
「多生の縁」もこの縁起思想から、袖が触れ合うくらいの些細な縁でもどんな縁起になるか
分らないのだから疎かに出来ない、と解釈してもいいのではないでしょうか・・・・。

 私は「袖振り合うも多生の縁」を「一期一会(いちごいちえ)」と同じように刹那刹那を大切に
生きよという人生の心得と考えるのです。
 

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