インターネット行政書士のフロンティア戦略  第100号   
                 平成24年10月10日発行 
      
民事法務のフロンティアに鉱脈を目差すインターネット行政書士のマインドと戦略。

                今回の目次
        □ 私文書の印鑑に関する2段の推定について



  日本では契約書などの私文書に署名をして印鑑を押印するのが通常です。
しかし、法律で印鑑が必要とされているのは、自筆証書遺言、婚姻届、手形、不動産登記
申請書、商業登記申請書などごく限られており、その他の文書では印鑑が必要とされては
いないのです。

  日本で印鑑を重用するのはそういう風土だからであり、印鑑の使用が商慣行として定着
しているからです。

  さて、紛争が裁判所に持ち込まれた場合、印鑑はどのように扱われているのでしょうか。

民事訴訟法228条4項では、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があ
るときは、真正に成立したものと推定する
と規定しています。

  「推定」とは、反証がない限りそれが事実だとされることですから、反証がなければ裁判官
により真正に成立した文書だと認定されることになります。

  また、同法では、署名があれば印鑑がなくてもいいと云っていますし、印鑑については
実印と認印を差別していません。    尤も、そうは云っても、実印の方が印鑑証明書
により本人の印鑑であることの証明が容易になるという大きな利点があります。


  署名があればいいと云っても日本は印鑑社会であり、文書には署名だけでなく印鑑
があるのが通常で、裁判ではこの印鑑を巡って争われることが多くなります。

  即ち、無権限者が勝手に本人の印鑑を押印したり、本人のものでない印鑑を押印する
ことがしばしば発生するのが印鑑社会であり、印鑑が本人のものか、本人の意思で押印
したものかということが裁判でよく争点になります。

  さて、裁判では権利を請求する方が権利の存在につき立証責任を負うというのが原則
です。     しかし、印鑑に関しては民事訴訟法228条4項という例外規定、及び以下の
最高裁判例により、私文書に印鑑がある場合に日本の印鑑重用の商習慣を尊重して
立証責任の転換を行なっているのです。

「私文書の作成名義人の印影が、その名義人の印影によって押印された事実が確定
された場合、反証がない限りその印影は本人の意思に基づいて押印されたものと
事実上推定
され文書全体の真正が推定される(最高裁昭和39年5月12日判決)

  つまり、印鑑証明書により本人の印鑑であることを立証しさえすれば、本人の意思に
基づき作成された真正な文書とされるのです。

  相手方が反論する場合は、無権限者が勝手に押印したとか本人の意思に基づかない
で作成された文書であるとかを立証しなければならないということです。

  この反証を行うのは実際に難しいことですから、債権者は債務者から本人の印鑑と
印鑑証明書を貰っておけば、立証責任の転換により裁判では断然有利に立つことになり
ます。

 そこで
2段の推定とは、次のことをいいます。
1
 最高裁昭和39年5月12日判決による事実上の推定
  私文書に本人の押印があるときは、本人の意思に基づき押印されたものであると
  事実上推定されます。
     ↓
2 民訴法第228条4項による法律上の推定
  私文書に本人の押印があるときは、「押印が本人の意思に基づいているとき」と
 解釈されて、文書の真正が法律上推定されます。

  この1と2を2段の推定といい、判例法として確立しているのです。

  この結果、本人の印鑑であることが印鑑証明書によって証明されれば、文書の真正が
推定されることになります。    相手方が契約の不成立や無効を反証するのは至難の
業なので、請求する側が勝訴する確率が格段に高くなります。

  その結果、本人が騙されていたり本人の意思でない場合でも金融機関の勝つことが
多く、一部の識者はハンコ裁判の弊害を指摘し消費者泣かせの悪法と批判しています。


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