インターネット行政書士のフロンティア戦略 第165号   
                    令和3年7月23日発行
         
民事法務のフロンティアに鉱脈を目差すインターネット行政書士のマインドと戦略。

                     今回の目次
                  □
一つの時代の終わり


 支払停止の抗弁権(割賦販売法第30条の4、同法第35条の3の19)という今では
当たり前の権利が創設されたのは、今から37年前の昭和59年(1984年)のことです。


  私は大手クレジット会社に昭和57年まで勤務した経験があり、支払停止の抗弁が
創設される前の消費者保護が弱い時代のことを知っている数少ない行政書士の一人
です。


  その時代では、こんなことが日常茶飯事でした。

  購入者は、買った商品が届いていない、欠陥がある、販売店に騙されたなどの事
情をクレジット会社にいくら告げても、クレジット会社から売買契約とクレジット
契約の別契約性を盾に、支払期限が到来したクレジット代金の督促に曝された
のです。

  売買契約とクレジット契約が別契約であることは判例の認めるところであり、購入
者はクレジット代金の支払いをトラブル解決まで待ってくれと主張しても一切認めら
れなかったのです。

  特に訪問販売の場合が悲惨でした。 当時は、契約を取るととんずらしてしまう悪
徳業者がゴロゴロいて、消費生活センターに相談しても埒が明かず、クレジットの残
債のみが残された購入者は泣き寝入りするしかなかったのです。

  クレジット業界が高度経済成長の波に乗り年々倍々ゲームで売上を拡大させて
行く中、こんな理不尽極まりない状態も段々と認知されて来ると、支払停止の抗弁
権創設が
喫緊の課題となり、昭和59年(1984年)になってやっと日の目を見たのです


  昭和58年(1984年)という年は、消費者保護元年とも云うべき年です。

  しかし、支払停止の抗弁権を使ってどのようにトラブルを解決するかは別の話で、
法的ノウハウが必要であり、消費者独りでクレジット会社と交渉するのはかなり負
担の重いことだったのです。

  かと云って、当時は、市の無料法律相談に出かけても消費者問題に取組む弁
護士などいませんでしたし、消費生活センターに相談しても交渉まではやってくれ
ません。

  支払停止の抗弁というのは、販売店に支払いを拒否出来る事情があればクレ
ジット会社に対してもクレジット代金の支払いを拒否出来るという権利です。

  しかし、権利の内容は誰でも聞けば分かりますが、実際のトラブルの局面はもっ
と複雑であって、どのような手続きで解決して行くかについては条文に何も書かれ
ておらず、裁判外での解決手続きもルール化されていた訳ではありません。

  更に、販売店とクレジット会社と購入者の三者間契約であるクレジット契約の仕
組みが、まず一般消費者に馴染み難いもので、割賦販売法の条文が多くの法律の
中でも最も分かり難い文章で書かれていると学者に指摘される程のものだったの
です。

  その上、クレジット会社はトークの巧みな社員を揃えていて、支払停止の抗弁を
すんなりと認めてくれるような甘い相手ではありませんでした。

  こんな現場の実態から、基本的には自分で法律を勉強して理論武装した消費者
でない限りクレジット会社と独りで闘うのが難しい権利だったのです。

  從って、支払停止の抗弁権が創設されたことにより、クレジットトラブルが急に減
ったり、訪問販売や悪徳業者が急に減少したという訳ではなかったのです。

  クレジットトラブルの殆どは加盟店がクレジット会社の監視の目を掻いくぐって行
なう違法行為に原因がありましたから、クレジット会社による加盟店管理調査義務
を強化しなければ最終的に解決しない問題だったのです。

  経産省はかなり前から通達で加盟店管理の強化と悪徳訪問販売業者の淘汰を
クレジット会社に要請していました。


  加盟店管理調査義務が明文化されたのは、平成21年12月1日施行の改正割賦
販売法からです。
 それから10年位で個別クレジット契約の締結件数が半減していますから、悪徳な
訪問販売業者が淘汰されていった結果なのだろうと思われます。

  
 クレジットトラブルの大半は訪問販売で起こっておりましたから、私が開業時から
内容証明郵便業務のメインにしていた支払停止の抗弁の依頼件数も減って来るの
は当然で、一つの時代の終わりを認識させられる昨今です。
  
 
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