インターネット行政書士のフロンティア戦略 第63号
[ 旧タイトル 行政書士もぐもぐ....自分流情報発信 ]
平成20年12月5日発行
民事法務のフロンティアに鉱脈を目差すインターネット行政書士のマインドと戦略。
今回の目次
□ 破産免責制度のもう一つの真実
☆井上薫氏の本から
☆多重債務者を生む構造
□ 破産免責制度のもう一つの真実
☆ 井上薫氏の本から
井上薫というヤメ裁(元裁判官の弁護士)が最近、猛烈に沢山の本を出版しています。
井上氏の持論は、蛇足判決違法論です。
どういうことかと云いますと、判決理由中には判決主文の根拠となる理由のみを記載す
ればよいのに、実際の判決文を見ると主文の理由とはならない記載が長々と書かれるこ
とが多々あるとして、井上氏はそんな判決を蛇足判決と呼んで批判しているのです。
裁判員制度も来年5月からいよいよ実施され、一般人にはブラックボックスでしかなかっ
た裁判の具体的な中身が白日の下に晒されることになります。
井上氏は持論に基づき短い判決理由に徹していたら、上司の裁判長から「判決の理由
が短いので改めるように」と指示されたという。 しかし、それに従わなかった為再任拒否が
濃厚となったので、それを待たずに自ら退官したそうである。
そんな事情もありますから井上氏の本には怨恨が全くないとは云えないでしょう。
我々一般人には知られざる世界である裁判所の裏側を書いていますから、
そのことも頭の隅に置いて置かないと真実の姿が見え難くなる危険があります。
例えば、井上氏は「裁判所が道徳を破壊する」(文芸春秋文庫)の中で、
「破産免責制度とは、金持ちの債務者が開き直ったスエに借金の踏み倒しの許可を得
る制度であると理解するのが正しいのです」と云います。
そのいい例として、債務者が免責の後に高い給料を貰っても債権者はこれに強制執行
が出来ないことを挙げています。
☆多重債務者を生む構造
しかし、私から見るとこれは少し極論に思えます。 中にはそおいう金持ちのケースも
あるかもしれませんが、圧倒的に多いのは年収200万円〜300万円以下のワーキング
プアの多重債務者だと思います。
多重債務者というのは 5社〜10社位から借りて総額が400万円〜800万円位に膨張
していて返す為にまた借りるという自転車操業に陥っています。 しかも、彼等の多くは
贅沢三昧をしたというより人並みの消費生活を維持しようとしてそうなっているのです。
始まりは生活費の絶対的不足にあり、生活費を補填すべくサラ金に手を出すように
なります。 サラ金は高利(これまでは年29%程度が普通)なので返しても元金が中々
減らず、やがて返済が追いつかなくなって他社から借りて来て返すというスパイラル
に嵌まり込んで行くのです。
これが多重債務者の一般的なパターンだと思います。
こんな悲惨で絶望的な生活はありません。
自己破産制度というのは、こんな自転車操業に陥っている人(経済的に破綻している
人)に支払不能であるとして免責を認め経済的再起更正の機会を与えるのが狙い
だった筈です。
自己破産は平成15年の24万件をピークに減少傾向にあり、平成18年は16万件
です。 昭和61年は1万件、昭和51年は78件でそれ以前は100件を超えたことは一度
もありません。 年間10万件以上になったのはここ10年です。
近年このように増えたのは、多重債務者が急激に増えて潜在需要がまずあったこと
と、それに呼応して弁護士らが破産免責制度の正しい情報を活発に発信し、それを
キャッチした多重債務者がその方向にどっと流れたからだと考えられます。
「借りた金は返すべきだという」という道徳があります。 しかし、多重債務者には
これを望むのは酷というものです。
そもそも、多重債務者というのは現代の消費社会が生んでいる面が強いと思い
ます。 生活費が慢性的に不足している多数の低所得者層の存在、 倹約より消費
を促進するクレジット制度、高利であるが簡単に借りられる消費者金融などが複合的
に絡まって生れた現代の鬼胎が多重債務者なのだと思うのです。
こんなに破産免責が増えながら、サラ金は莫大な利益を上げ続けていました。
消費者金融を利用する何千万人という優良な顧客が支払う年27%という利息の総額は
莫大で(大手1社で1千億円以上の経常利益)、破産免責者は全体の1パーセン以下と
いうレベルですから、その損金など微々たるもので想定の範囲内だったと云えます。
平成18年12月の貸金業規制法の改正により金利の上限が年18%まで引き下げられ
ました。 この法改正はサラ金業界始って以来の大改正で、過払金返還請求の急激な
増加をもたらしています。
返還する過払金の額は破産免責の損金などより何倍も多い為、ここに来てやっと
経営にも影響が出始めているのです。
私が破産免責制度で一番問題と思うことは、免責の効果が連帯保証人に及ばない
ことです。 サラ金の場合は無担保ですが、銀行融資など高額融資では連帯保証人
が付きます。 そして、親戚とか友人とか情義でなる連帯保証人が多いのです。
連帯保証人というのは無償の慈善行為です。 得るものは何もないからです。
連帯保証から1、2年で債務者が自己破産するケースがあります。
これなどは連帯保証人を依頼して来た当時から経済的に破綻状態にあったと思われ、
単に自己破産の一時的先延ばしに連帯保証人が利用されているだけです。
そんな連帯保証人に債権者は請求して来ます。
債務者が破綻寸前の状態にあると知れば連帯保証人になる筈がないとして、
動機の錯誤により無効とした東京高裁判決があるにはあります。
東京高裁平成17年8月10日判決
しかし、連帯保証人が動機の錯誤を主張しても債権者はどんどん裁判を起して
来ます。 今までは多くの判決が銀行に有利だったからです。
私には無償で慈善行為を行った連帯保証人に債権回収のリスクを被せてしまう
ことが理不尽でなりません。
今の破産免責制度が連帯保証人を騙した債務者のみを救済して、無償行為の
連帯保証人に全リスクを負わせているとすれば、重大な欠陥があると思う次第です。
※ ご感想・ご意見をお寄せ下さい。
→メールアドレス:redume@jcom.home.ne.jp
発行者 : 行政書士 田中 明 事務所
〒239-0822 神奈川県横須賀市浦賀5丁目42番11号
TEL・FAX 046−843−6976
マガジン説明用Webページ : http://lantana.parfe.jp/break1.html
内容証明郵便でブレイク! : http://lantana.parfe.jp/
インターネット法務支援室 : http://lantana.parfe.jp/seotope.html
-------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、『まぐまぐ』 http://www.mag2.com/ を利用して発行
しています。解除は http://www.mag2.com/m/0000113282.htm か