インターネット行政書士のフロンティア戦略  第90号   
                 平成23年8月30日発行 
      
民事法務のフロンティアに鉱脈を目差すインターネット行政書士のマインドと戦略。

                今回の目次
       □ 「営業のために若しくは営業として」の要件について
          ☆ 公権的解釈では
          ☆ 「商行為」から「「営業のために若しくは営業として」に訂正された理由



   □ 「営業のために若しくは営業として」の要件について

    ☆  公権的解釈では
  最近、法人や個人事業者が訪問販売業者からクレジット契約で購入しその後に販売業者
が倒産して役務が債務不履行になったので支払いを停止しようと思ったらクレジット会社から
商行為だから出来ないと云われたがどうなのかいう相談が多く来ます。

 割賦販売法第35条の3の60第1項第1号により 「営業のために若しくは営業として」の取引
に、支払い停止の抗弁が適用除外されることになりますので、特に零細自営業者には大きな
問題です。

 一方、クレジット会社も所詮金貸しであり支払い停止の抗弁を無闇に行使されるのを嫌い
ますから、事業者の契約であればまず商行為を主張して来るのです。

 しかし、事業者の取引であれば全て商行為になるというのは、条文から見ても明らかに間違い
です。   では、契約が「営業のために若しくは営業として」の取引に当たるとされるのには如何
なる要件を満たす場合なのでしょうか。

 割賦販売法を管轄する経済産業省の考えを整理すると、以下の通りです。
     参照 → 平成20年版「割賦販売法の解説」経済産業省商務情報政策局取引信用課編

・ まず基本的には割賦販売が事業・職務の用に供するために購入し又は役務の提供を受ける
 場合に本号が適用されます。
  つまり、契約が
営利の目的をもって、かつ事業のために又は事業の一環として行われる
 ことが要件である
ということです。

  「営利の目的」とは利益をあげる目的のことですが、内心の意図によってではなく客観的に
 判断されるべきとされます。

  例えば、従業員の為に自販機を購入するのなら福利厚生の目的ですし、殆ど自宅で使用
 する為にIP電話を導入するのなら自宅消費の目的ですし、ボランティア事業としての購入でも
 営利の目的ではありません。

・ 次に、「事業のために又は事業の一環として行われること」の「事業」ですが、反復・継続して
 行う意思をもって行為が行われる場合が事業になります。
  ですから、飲食店とか何か商売をしていれば事業性があることになりますが、クレジット契約が
 その事業の一環として契約されることが要件だということです。

  例えば、大阪高裁平成15年7月30日判決は自動車の修理業を行っている会社が消防法
 で設置を義務付けている消火器を購入したケースで、
 営利目的がなく、かつ消火器を営業の対象としていないので「事業の一環として行われること」
 には当たらないとして、「営業のために若しくは営業として」の取引ではないと判断しています。
  
  これは株式会社にクーリングオフを認めた先駆的な判決なのです。

・  最後に、契約が「営業のために若しくは営業として」の取引に当たるとも当たらないとも云える
 場合には、基本的に割賦販売法の規定の適用があるものとして取り扱うことが期待されると
 しています。


     
☆ 「商行為」から「「営業のために若しくは営業として」に訂正された理由
   クーリングオフを規定する特定商取引法の除外規定を「商行為」から「営業のために若しくは
 営業として」に訂正した
のは、1988年(昭和63年)のことです。
 
   この時の改正理由は、多くの被害者を出していた貴金属や会員権の利殖商法被害の事業者
 を救済する為とされています。

   つまり、貴金属や会員権の利殖商法取引は絶対的商行為になりますから、除外規定の文言が
 「商行為」ではクーリングオフが出来ません。 
   
   そこで、「営業のために若しくは営業として」に訂正して、本業の営業と無関係であることを主張
 立証しさえすれば事業者でもクーリングオフが出来るようにしたという訳です。

   ところで、大阪高裁平成15年7月30日判決はこのような改正理由から少し離れて、絶対的商行為
 だけでなく附属的商行為の場合であっても「営業のために若しくは営業として」いないことを立証すれば、
 除外規定から排除されると解釈しているのです。

   つまり、この判決の解釈に拠れば、取引が営利目的でなくかつ本業の対象でないということを立証
 すれば「営業のために若しくは営業として」の取引でないことになり、
 救済される範囲がぐんと広がることになります。
         
   多くの法律家の間ではこの解釈を妥当と考えているようです。
 本業と無関係な取引であれば、プロと云えず、情報格差を悪用した不意打ち的な訪問販売から
 保護されて然るべき状況にあるという点では、事業者であっても消費者と変わりないからです。

   さて、割賦販売法の除外規定の商行為が「営業のために若しくは営業として」に訂正されたのは、
 特定商取引法よりずっと遅く
2009年12月1日のことです。
   クーリングオフと支払い停止の抗弁の違いはありますが、「営業のために若しくは営業として」の
 解釈では、大阪高裁平成15年7月30日判決が影響を及ぼしていることは云うまでもありません。
  
       
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