トップ>   エッセー集パートU 題目  >  フロンティアである権利義務・事実証明業務   サイトマップ       

                   内容証明郵便でブレイク !    行政書士田中 明事務

                      エッセー集 パートU         → HPトップ
                <縮こまるな、大いなる志を抱いて道を拓け!>


   フロンティアである権利義務・事実証明業務
   
  権利義務又は事実証明に関する文書の作成は弁護士法第3条でいう「その他一般の法律事務」に当たり
弁護士の業務であるのは当然ですが、弁護士法第72条但書の「他の法律に別段の定めがある場合(つまり
行政書士法第1条の2の存在)はこの限りでない」により、行政書士は他人の依頼を受け報酬を得て権利義
務又は事実証明に関する文書を作成することが出来ます。
  もちろん、無報酬ならこれらの文書は誰でも作成出来ますが他人から報酬を取って作成出来るのは弁護
士と行政書士だけであり、弁理士、公認会計士、税理士は行政書士となる資格を有するものの、行政書士と
同じ範囲でつまり網羅的にこの業務をやって報酬を取るには行政書士登録をする必要があるのです。
                        
  権利義務又は事実証明に関する文書の作成業務に関しては行政書士に代理権があり弁護士と殆ど変わり
ない権限があるということになり 行政書士にとって大変誇らしいことです。   
 しかし、この分野でこれだけの権限が行政書士に与えられている割りに中身についてはよく分からない
分野であり、その意味では研鑽を積めば業務の拡大が期待出来るフロンティアなのです。
  さて、権利義務又は事実証明に関する文書についての定義が民法や行政書士法に一切記載がされてお
らず、権利義務と事実証明の用語については刑法第157条の公正証書原本等不実記載罪と刑法第159条の私
文書偽造罪の条文の中で使用されているだけで、解釈と具体例については判例に委ねられていて整理します
と以下の通りです。
                       
  まず、権利義務に関する書類とは権利の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とする
意思表示
を内容とする書類をいいます。    
  これには私法上のものと公法上のものがあり、財産関係に関する証書の他、婚姻・養子縁組の届書のような
身分関係に関するもの、民事・刑事の訴訟に関する文書でもよいとされます。
  また、権利義務の成立要件になっている文書の他、単に権利・義務の存否を証明する性質の文書や権利義
務に変動を与える可能性を有する文書も含まれるとされます。

<例>  契約書、示談書、内容証明郵便、会社設立時の原始定款、遺産分割協議書、就業規則、自賠責保険金
  請求書その他各種の請求書、境界確定書、念書、覚書、辞令書、借用証書、債権譲渡通知書、領収証、
  株主総会議事録その他各種議事録、 催告書、各種の請求書・申込書、告訴状、行政手続法に基づく聴聞
  又は弁明の為の意見陳述書その他添付書類、情報公開法に基づく開示請求書・・・・・・etc 

  次に、事実証明に関する書類とは実社会生活に関わる交渉を有する事項を証明するに足る文書をいい、
世の中に存在している事実又は存在していた事実で法律上の効果を発生させない事実を単に書面化した文書
が事実証明に関する文書ということです。
   
<例.>実地調査に基づく各種図面(位置図、案内図、現況測量図等)、会計帳簿、相続人関係図、営業所の見取図、
  郵便局に対する転居届、画書の箱書、推薦状、新聞広告、寄付金の賛助者名簿、事故発生状況報告書、
  遺言書原案、財産目録、葬儀収支計算書、原始定款を改訂した定款、各種の連絡文書・・etc

 ※ なお、営業所の見取図を営業許可申請書の添付書類として作成すれば「官公署に提出する
  書類」となりますし、会社設立時に作成する定款は権利義務に関する文書とされますから、
  権利義務の文書か事実証明の文書かは固定的に捉えられない面があります。


 ※ 個人の鑑賞ないし記念の為に作成された巻物家系図は、対外的な関係で意味のある証明
   文書として利用されることが予定されていないとして行政書士法第1条の2第1項にいう「事実
   証明に関する書類」に当らないとされました(最高裁平成22年12月20日判決)。

                          

 
このように凡そこの世に存在する文書というのは社会的に無価値なものを除いて権利義務又は事実証明に
関する文書に該当すると考えてもいいと思いますので、積極的に行政書士の方から権利義務又は事実証明に関
する文書だと見做すことにより行政書士業務が開拓出来ると思います。

  ただし、行政書士は弁護士法第72条の「法律事件」には関われませんので、この「法律事件」の中身を知って置
く必要があります。   同法第3条で「法律事務」と云っているのに対し、同法第72条では「法律事件」と明記し明
らかに区別して使用しています。    この事実を重視する罪刑法定主義の観点や隣接法律専門職との調整を
考慮する観点等から、紛争性(事件性)のある法律事務が「法律事件」だという解釈(事件性必要説)が、法務省、
総務省、検察庁等の実務の現場では支持されており、これが通説となっています。    しかし、日弁連だけは
今でも事件性不要説を棄てていません。
  次に、事件性の程度ですが、「訴訟など弁護士法第72条に列挙される事項と同程度に紛争が成熟してい
ること
」とされ、また「紛争性は抽象的な予見可能性では足りず、具体的な蓋然性が必要である」とされます。
                       
  要するに、「訴訟事件、非訟事件、及び審査請求、異議申立て、審査請求等行政庁に対する不服申立事件その
他一般の法律事件に関し鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務・・・・」(弁護士法第72条)と同程度に紛
争が成熟しているか又は同程度の紛争に成熟する具体的蓋然性があることが法律事件と認定される要件なので
す。
                         
  もう少し具体例で述べますと、示談交渉は法律事件でない限り行政書士でも可能ということになります。  
実際に、交通事故に関する損害保険会社への保険金請求事務は行政書士がやっています。    加害者が責任
を自認している場合に行政書士が損害保険会社と過失割合や賠償額の渉を代行をすることは、紛争性が具体的で
なく法律事件に当たらないとされるからです。
  そうだとしても、事故発生状況報告書などの文書作成つまり代行がその中身であり、行政書士は示談交渉の代
理までは出来ないと考えるのが一般です。
  しかし、事件性必要説に立てば弁護士の独占は法律事件のみなのですから、事件性のない交通事故案件なら
行政書士は示談交渉の代理が出来るとしてもおかしくないと思います。
  尤も、加害者が途中から賠償責任を否認したり訴訟や調停で争う意思を表明して、紛争性が蓋然化した場合には
行政書士は速やかに離脱する必要があります。
  文書作成と提出のみにつまり示談交渉の代行に限定していれば、いつ起こるとも限らない状況の変化に対応しや
すということなのかもしれません。
                                      2011.3.5


                   行政書士田中 明事務所