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   消費者契約法第10条と無催告失効条項

 
日本は保険契約高がアメリカについで世界第二位の保険大国です。   しかし、一人当たりの保険料に
なると、日本人はアメリカ人の2倍も支払っています。 
  調査によれば一世帯当りの平均年収が550万円、一世帯当りの平均生命保険料が44万円となり、年収の
8%を生命保険料に負担している計算になります。
  新規の生命保険契約は平成20年で約910万件ありますが、その一方で解約又は失効約720万件もあります。 
因みに、死亡と満期による消滅が約500万件ですから、それより遥かに多い膨大な生命保険契約が解約又
は失効により消滅しているのです。
  年間に失効している生命保険契約は約210万件で、その内復活を認められるのが15%ありますから、実質
的に失効しているのは約178万件ということになります。
  各社の生命保険約款では、保険料を支払わないまま猶予期間を過ぎると自動的に契約が失効することに
なっています。  通常は解約返戻金の範囲内で保険会社が保険料を立替える自動振替貸付制度が設定さ
れていますから、立替金が解約返戻金を超えない
期間まで失効が猶予されます。
                       
  失効とは保険会社が保険契約者の債務不履行を理由に契約を解除することなのですが、失効手続きには
催告も解除の意思表示も要らないということです。
  この失効の中には、保険契約者が失踪して保険料がストップした場合もあります。   残された妻などが代
わって支払えば失効を防げますが、その方法も知らぬ内にいつの間にか失効していたというケースも相当ある
のではないかと予想されます。
  生命保険とは残された遺族の生活を保障する為に考えられた制度です。  であるとすれば、保険会社には
失効を未然に防ぐ配慮義務があって然るべきです。
  保険契約者が失踪して行方不明というケースでは死亡又は失踪宣告により復活が困難になる確率が高いと
したら、保険契約者が任意に支払いをストップしているケースと一律に扱うのは信義則に反していると云わざる
を得ません。
                       
  最近、東京高裁が無催告失効条項を消費者契約法第10条に反し無効であるという判決を下しました。  
これは生命保険約款の無催告失効条項に初めて消費者契約法第10条を適用した画期的な判決です。  
                       
  消費者契約法第10条にはこう規定されています。
「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は
消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反し消費者の
利益を一方的に害するものは、無効とする(同法10条)。」
  後段要件にある民法第1条2項に規定する基本原則とは、信義則のことです。
信義則による判決はこれまでも結構ありますが、信義則違反だから無効ということになりませんでした。  
  しかし、信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものは無効とする消費者契約法第10条が制定された
お陰で、裁判官は本条を適用して特約条項を無効とする判示が堂々と出来ることになった訳です。
 
 なお、最高裁においては 
 「 本件約款において、保険契約者が保険料の不払いをした場合にも、その権利保護を図る
  ために一定
の配慮をした上記イのような定めが置かれていることに加え、上告人において
  上
記のような運用を確実にした上で本件約款を適用していることが認められるのであれ
  ば、
本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらないも
  のと解される
(高裁平成24年3月16日小法廷判決) → 決全文  
  と判示されています。

 判決中のイとは、失効までの猶予期間の存在、保険会社契約者を保護する仕組みを差し、上記の
ような運用とは督促の確実な運用等を差している。

                                        2016.7.13 一部改訂




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