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                   内容証明郵便でブレイク !        行政書士田中 明事務所

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                悪徳商法に絶対負けない消費者になる方法


     信義則という民事法務のフロンティア

  悪徳業者のやり方から法律の不備や法の隙間を教えられることが多々あります。
例えば、リース契約で販売業者に騙されと思っても原則として解約が出来ませんし、
クレジット契約では商行為ならクーリング・オフも支払い停止の抗弁も出来ません。
  しかし、諦めるのはまだ早いのです。  ネットで調べて見ると、クレジット会社が
販売店の悪徳商法を知り得る立場にあった場合、支払いを請求することは信義則
に反するとした判例を発見したりします。
  つまり、裁判所は信義則を消費者保護の為の最後の砦として使っているのです。
この信義則が内容証明郵便で武器として使えないものかと、私は考えています。
         
  さて、信義則とは何か。  民法第1条第2項は「権利の行使及び義務の履行は、
信義に従い誠実に行わなければならない」と規定しています。  これが信義誠実
の原則(条理ともいいます)というもので、略して信義則(しんぎそく)と云います。
  要するに、当該具体的な事情のもとで、相互に相手方の信頼を裏切らないように
行動すべきであるという法原則です。
                  
1 まず、信義則は法律行為の補充的解釈、修正的解釈の最後の基準となります。
  例 民法第715条第3項に基づき使用者が被用者に行う損害の賠償又は求償の請求は、
    信義則上相当と認められる限度とする(最判昭和51年7月8日)。
2 次に、以下の機能を営みます。
イ 社会的接触関係にある者どうしの規範関係を具体化する機能
   例 債務者は契約目的達成の為にどのような付随的義務を負うべきか。
     ・契約締結協力義務、重要事項開陳義務、保護義務、助言・指導義務・・・・。
     ・借主の違反が信頼関係を破壊する恐れがない時は、信義則上貸主は解除権を行使し
      えない(最判昭和41年4月21日)。

ロ 制定法の規定が存しない部分を補充し、さらには制定法の形式的適用による
   不都合を克服する機能(信義則の分身として営まれる)
         信義則の分身の主なものに、次の4つがあります。
 A 禁反言(きんはんげん、エストッペルの原則)・・・・・自己の行為に矛盾した態度
       を取ることは許されない。  
    例 時効完成後に債務を承認した者の時効援用は、信義則上認められない
       (最判昭和41年4月20日)

 B クリーハンズの原則・・・・自ら法を尊重する者だけが法の尊重を要求することが
       出来る。
        ※ 民法第708条第1項(不法原因給付)は条文に具体化された例である。
    例  ヤミ金には支払った元本と金利の全額を損害賠償として請求が出来る
        (最判平成20年6月11日)。

 C 事情変更の原則・・・・契約締結後その基礎となった事情が、当事者の予見し得
     ない事実の発生によって変更しこのため当初の契約内容に当事者を拘束す
     ることが極めて苛酷になった場合に、契約の解除または改定が認められる
     (我妻榮)。
    ※ 借地借家法第11条(地代等増減請求権)は条文に具体化された例である。
 D 権利失効の原則・・・・権利者が権利を長い間行使せず、相手方がその権利はも
     はや行使されないものと信頼すべき正当の事由を有するに至り、その後にこ
     れを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある
     場合には、
権利行使は許されない(最判昭和30年11月22日)。

       ※ なお、CとDの原則を適用した判例は →殆どありません。
                       ж

  ところで、消費者契約法が施行されて7年が経ちます。 7年も経てばさすがに判例
も蓄積されて来ます。  近時では保険約款の無催告失効条項に消費者契約法第10
条を初めて適用し無効とした東京高裁判決があります。   以下は判決全文です。
  http://www.baobab.or.jp/~ggmx/shinchiyaku/z198/kouzahunou.html
  消費者契約法第10条にはこう規定されています。
「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費
者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第
1条第2項に規定する基本原則に反し消費者の利益を一方的に害するものは、無効とす
る同法10条)。」
  後段要件にある民法第1条2項に規定する基本原則とは、信義則のことです。
信義則による判決はこれまでも結構ありますが、信義則違反だから無効ということに
なりませんでした。  
  しかし、信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものは無効とする消費者契約
法第10条が制定されたお陰で、裁判官は本条を適用して特約条項を無効とする判示
が堂々と出来ることになった訳です。
  大企業も賃貸業の大家さんも契約書や約款の条項が一方的に消費者の利益を害
していないか十分吟味して掛からないと安心出来ない時代に入ったのです。




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